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書評 ウンベルト・エーコ 『論文作法』 

20050831160306
論文作法―調査・研究・執筆の技術と手順
谷口 勇 ウンベルト エーコ


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総評

 一流の文筆家による一流の論文入門。これから論文を執筆するすべての人はもちろん、まじめに文章を書いてみようというすべての人にお勧めしたい。
 世間は多数の文章入門本で溢れている。しかし、ほとんどは駄本だと言っていい。なぜか?それは、二流・三流の書き手の書いたマニュアル本だからだ。

 よい読書をするコツは、とにかく一流のものを読むことだと思う。論文入門にしてもそう。二流の書き手が書いたものは、所詮二流のノウハウ。三流の書き手の書いたものは、同様に三流のノウハウ。だから、論文の作成法にしても、可能なら一流の技を盗みたい

 筆者のウンペルト・エーコは「薔薇の名前」「フーコーの振り子」などの小説で知られているが、本業は学者。しかも、記号論の領域では超一流の業績を持つ人物(らしい 笑)であり、したがって論文作成もお手の物。

 本書はそのエーコによる論文執筆のイロハ。資料探し(ネタ集め)から、情報整理、執筆の手順から文章のコツまで、超一流のノウハウが盛りだくさん。卒論を書くときにこれが手許にあったらなぁと、残念に思うくらい実用的(なにせ決して奨励はされていないものの、盗作のしかたまで書いてあるのはこの本くらいでしょう)。しかも、簡潔で具体的でありながら、みずみずしいまでに文学的。読み物としても非常に面白いという点で、そこらのファーストフードのように陳腐な凡百の文章マニュアルとは格が違う。幾つか、抜粋したので、味わって欲しい。

 難点は、欧米の読者を対象に書かれたので、挙げられた例が少し分かりづらいくらいか。あと、多少翻訳調なのも気になるところ。

 これから論文を書かなければいけない人はもちろん、ブログでちょっと気合の入った文章を書いてみようかなという人にもお勧めの一冊。論文を書くこと自体には興味がなくとも、きっと様々な示唆があることであろう。

 以下抜粋。すべての強調個所は筆者による。



テーマの選び方

 結論として、次の基本原則を覚えておいて欲しい。―範囲を狭めるほど、仕事は良くなり、基盤がしっかりする。モノグラフ的論文のほうがパノラマ的論文よりも望ましい。論文は歴史や百科事典よりもエッセイに似る方がよいのである。 p17

 もう一つの解決策はもっと不安定である。それというのも、学位志願者が、神の問題とか、自由の定義の問題とかを僅か数ページのスペースで解決できるものと思い込むからである。私の経験からいえば、この種のテーマを選んだ学生はほとんど決まって、学問的研究によりも抒情詩に近い論文、評価に値する内的組織づけもない、ごく短い論文を書くのが常である。p19

 空虚のなかに生き、論述を白紙から(ab initio)うちたてるのは難しい。殊に、存在とか自由の概念のように、極めて漠然とした問題にとっては、支点を見つける必要がある。たとえ天才であっても、しかも本当に天才であっても、その人が他の著者を基点にするのは決して屈辱的なことではない。しかも、先行の著者を基点に据えることは、彼を物心化するとか、崇拝するとか、彼の言葉にかけて誓うとかを決して意味するのではなく、反対に、彼の誤謬、彼の限界を実証するためにその著者を基点に置くこともできるのである。 p20

作業仮説としての目次


 論文を書き始めるためになすべき最初の事柄の一つは、表題、序説、最終目次を書くことである。つまり、まさしく、いずれの著者でも最後になす仕事にほかならない。最後から始めよ、という助言は逆説的なように思えるかもしれない。だが、目次は最後にくるものと誰が保証しよう?(p131)

 作業計画の第三段階は、序説の草案作りである。これは目次の分析的注釈にほかならない。「この作業をもって、われわれはかくかくの論文を論証しようと思う。先行の諸研究は多くの問題を未解決のまま残したし、集められたデーターではまだ不十分だ。第Ⅰ章では、そういう点を見定めたい。第Ⅱ章では、またほかの問題に取り組みたい。結論では、あれこれの論証を行いたい。ある種の明確な限界―つまりあれやこれやの限界―を指摘したことを銘記しておいて頂きたい。こういう限界の中では、われわれは次の方法に従いたい…」

 この暫定的序説(暫定的というのは、論文を終える前には何回となく書き替えることになるであろうからなのだが)は一つの機能を果たす。つまり、それは大綱に沿ってアイデアを定着させることを可能にする(大綱というものは、目次の意識的再構成を行わない限り、変更されないだであろう)。このようにすれば、君は脱線や衝動を規制することができるであろう。(p134-35)


 …作業計画を立てたまえ。この計画は暫定的な目次の形をとるだろう。この目次が要約をなしていて、各章ごとに短い概要をつけてあればなお結構。このように取りかかっているうちに、君のなしたいことを君自身に対しても明らかに示すことになろう。

(中略)

 より正確を期せば、作業計画には、表題、目次、序説が含まれる。良い表題にはそれだけでもうすでに一つの案なのだ。何ヶ月も前に大学事務所に提出しておく表題のことではない。そんなものは、ほとんど決まって、大層一般的なものであるから、無限の変化を可能にするのが常である。私のいっているのは、君の論文の"隠し表題"のこと、つまり、たいていは後で副題として現れるところのもの、についてなのだ。論文というものは、"公の"表題としては《トリアッティ暗殺計画とラジオ》でかまわないが、その副題(真のテーマ)は、《突発した政治的事件から世論の注意をそらすために、フランス一週自転車ロードレースにおけるジーノ・バルタリの勝利を衣料したという事実を明かす目的からの〔ラジオ・ニュースの〕内容分析》となろう。言い換えると、テーマ区域に焦点合わせをした後では、それの特殊な点だけの研究を心がけるということなのだ。こういう点を明確にするのは、一種の質問形式をとることにもなる―トリアッティへの暗殺計画から聴衆の注意をそらすもくろみをさらけ出すに至るような、ジーノ・バルタリの勝利の事実についての特別な利用が、ラジオにおいてなされたのか?また、かかるもくろみは、ラジオ・ニュースの内容の分析によってさらけ出せうるのか? このように、"表題"というものは(質問形式に変えてみると)、作業計画の主要部分となることが分かるだろう。(p132-33)


文章の書き方に関して


 プルーストになるなかれ。冗長な文章を作ってはいけない。どうしてもそれを回避しがたいなら、そうしたまえ。だが、それから後で、それらの文章を区切りたまえ。主語を2回繰り返すことを恐れないで、また、過度の代名詞や従属節を回避したまえ。こんな文章を書いてはいけない―

 今日、大勢の人たちから、現代哲学の代表作とみなされている『論理―哲学論考』を著した有名な哲学者の兄弟だったピアニストのヴィトゲンシュタインは、戦争で右手を失ったため、左手でコンチェルト(協奏曲)をラヴェルに書いてもらうという幸運に巡り合った。

 むしろ、次のように書くことだ―

 ピアニストのヴィトゲンシュタインは哲学者ルートヴィヒの兄弟だった。戦争で右手を失くしていたため、ラヴェルは彼のために、左手でコンチェルトを書いたのだった。

…(中略)

 お気づきだろうが、ある時点になると、もう、誰のことを語っているのかわからなくなる。(p175~177)


 改行を多くしたまえ。それが必要な場合とか、テクストのリズムがそれを要求する場合に。いずれにせよ、それを頻繁に行うほどよいのである。

 脳裏に浮かぶことを全部、だが初稿の間に限り、書つけたまえ。後で気づくだろう。―君が誇張にひきずられてしまい、 君のテーマの中心からそれたことを。そのときには、括弧部分や脱線個所も切り捨てて、それらを注とか付録の中へ入れたまえ論文というものは、君が知悉していることを証明するためのではなく、当初に君が練り上げた仮説を証明するためのものなのだ

 論文指導教員を実験台として活用したまえ。論文提出日よりずっと早めに始めの数章(後で、残りの全部を少しずつ)指導教員に読んでもらうようにしなければいけない。教員の反応はきっと君に役立つだろう。もしも指導教員が忙しい(もしくは緩慢)ならば、友人を利用したまえ。君が書いたことが理解されるかどうかを確かめたまえ。孤独な天才を演じてはいけない

 第一章から始めよう、とあまりかたくなになってはいけない。ひょっとして、第四章に関しての方がより準備が整い、資料的裏づけができているとしたら、あたかもすでに先行の数章を片づけてしまった人のように、のびのびとそこから開始したまえ。こうすれば、勇気が湧くだろう。もちろん、参照点を持たねばならない。それは、冒頭から君の指針となる仮説としての目次のことである。(p179~80)

ウンベルト・エコ/谷口勇 訳 
『論文作法』―調査・研究・執筆の技術と手順
東京、而立書房、1991 ed.2
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コメント

胸ズキュン

一つの意見をよく見せようと肉付けしては、かえってその意見から遠ざかってるんだな~と痛感。
イメージとしては、彫刻のように決まった形を明確にする論文が良いのでしょうね。
ムズイ。

むぅ

>シュガーレスゾンビさん

 彫刻のような…なるほど、そうかも。

 確かに、あれは無から有を作り出しているのではなく、原料の無駄を削ることによって形をつくっているんですよね。

 なるほどぉ、文章、また然り。

では、こっちに遠慮なく書かせていただきます(笑)

寝太郎さんが書いていることと全く同感なのですが
個人的には、「拙著が役立ったとしたら、それはこれらのテクニックを
すべていま一度想起させること、
諸賢の多くが気づかずにすでに吸収ずみのことをはっきりと意識させること」(P256)
がでかかったです。
こんなに懇切丁寧に引き出してくれる論文マニュアルって、ないですよね。

「論文書くのが楽しい」って気持ちまで引き出してくれましたし。

近々ある面談が楽しみになってきました。ありがとうございました。

なるほど

>とよさん

 その一節は読み落としていました。なかなか含蓄の深いことばですね。なるほど~。

 面談がんばってくださいね!

あれから・・・

面談ありました。

論文に関するアドバイスをいただく際に
この本を読んでいたおかげで、すんなり入ってきましたよ。
「あ、あれはあの本にもあったなあ。そういうことか」
と再確認できたり・・・。

仕上げる前に、また読み直してみたいなあと思いますよ。
ほんと、いい本です。

嬉しいです

 いやはや、そんなことを言っていただけると、いままでちまちまブログつけてて本当によかったなぁと思います。

 いい論文書いてくださいね!!

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