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理解するということ 

 ある概念の体系的整合性を論理的に認識することと、それを文脈的に理解することは異なる。

 これはある概念を論理的に定義することと、それを総体的に描写すること、これらが異なるという事実と相応している。

 ある概念は文脈的思考の結果として、初めて成り立つ。

 この場合、文脈とは、相異なる思考系列が相互に互いのmindに乗り入れるという意味での、コミュニケーションのプロセスを指す。

 真の意味での「思考」が変革をもたらすのは、その本質が対話的だからである。

彼とわたしを「話題」がひとつの闘技場としてつなぐ。彼とわたしは、その共通の関心事としての「話題」について考え、そしてここが重要なのだが、それを言語化し相互に伝達しあう。伝達のプロセスにおいて生じる見え方の相違が、わたしと彼に人間的な関係性を打ち立てる。その違いを基点に、わたしと彼はそれらの「相違」を描くために対話を続ける。なぜならば、われわれはア・プリオリに理解できないということに対して、本能的な不安を感じるように出来ているからに他ならない。

対話の到達点は、われわれの間のこの「見え方の相違」がなぜ生じているのか、お互いに理解できた時である。これらを生じさせる、根源的な彼とわたしとの間の「違い」を認識できたとき、初めてわたしは自分と完全に異なる他者というものを自分の世界の一部として受け止めることができるようになる。

(プラトンやヘーゲルの方法論とは異なることに注意!プラトン―特に中期以降―はあくまで見解の相違を埋める為の「合意」を形成するための手段として対話を重視したのであって、そういう意味では対話性とは思考の本質ではなく手段であった。そういう意味で、プラトンとソクラテスの間には深い断絶があると思われる。また、ヘーゲルにおいても、事情は似ている。)

そういう意味で、わたしと彼は対話を通してそれ以前とは完全に異なる者へと変革される。いわば、主体と客体の相互変革がそこにおいて必然的に生起する。

 重要なのは、ハンナ・アーレントが指摘したように、個別の思考もまた、自己内対話として生起することだ。(彼女はこれを”a silent dialogue between me and myself”と表現した)自分の中のさまざまな思考の体系―過去の文脈―が、いまという大河の本流にたくさんの小さな支流が流れ込むように、相互にぶつかり合い、混ざり合い、再び分かれて行く。たとえば、自分が「救済」というテーマについて考えるということは、3時間前に観ていた絵画の印象という体系、自分の中でAという女性に対する思い出という体系、キリスト教神学の知識という体系、仏教哲学の体系、西洋哲学の体系、楽園喪失という概念に対するイメージと思索の蓄積という体系、など、数え切れないほどの大小無数の異なった文脈の流れが相互に乗り入れ、擬似的な対話を繰り広げる。やがて、当座の結論という暫定的な終着点にわたしの理性が満足するとき、対話は一旦終了し、別な話題―関心事―がとって代る。

 この暫定的な終着点が言語化されるとき、「概念」とわれわれが呼称する思考の結晶が、共通世界に産声を上げる。それが、一見論理的な定義の様相を帯びるのは、われわれの言語の構造的な文法の産物に他ならない。この論理的な外見に基づき、演繹的に体系化が行われ、ひとつの物語として完成される。これが概念の論理的な定義である。このプロセスを経ることで、われわれは初めてある概念を概念として認識することが可能になるのである。

 しかし、ある概念を理解するためには、それを総体的に描き出さなければ(to sketch)ならない。つまり、その結晶点に至るまでのさまざまな系の乗り入れと激突の過程が記録され、絵画的に把握されなければならないのである。それは、結局のところその概念が生じた文脈を明らかにすることである。したがって思想史的な意味での体系化、つまり思想家ではなく思想史家の体系化とは、思想家の遺した概念を太陽の光にあてることにより、それが誕生したときにそこに注ぎ込んでいた無数の思考のせせらぎを解凍し、その流れを再現することに他ならない。

 ある概念に思想史的にアプローチするということはそういうことであり、こうしたプロセスを経て、初めてわれわれはある概念を「理解」することができるのである。ゆえに理解とは定義することではなく、文脈にかかわる事柄である。
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