茨木のり子 「小さな娘が思ったこと」
小さな娘が思ったこと
小さな娘が思ったこと
ひとの奥さんの肩はなぜあんなに匂うのだろう
木犀みたいに
くちなしみたいに
ひとの奥さんの肩にかかる
あの淡い霧のようなものは
なんだろう?
小さな娘は自分もそれを欲しいと思った
こんなきれいな娘にもない
とても素敵な或るなにか…
小さな娘がおとなになって
妻になって母になって
ある日不意に気づいてしまう
ひとの奥さんの肩にふりつもる
あのやさしいものは
日々
ひとを愛してゆくための
ただの疲労であったと
『茨木のり子詩集 現代詩文庫 第 1期20 』
透き通った眼差しと優しさのけぶる端麗さ。
自分が茨木のり子という詩人に対して抱いている印象をひとことで表すと、こんな風に表現できる気がする。
家庭を持った女性特有の雰囲気を、よい香りのする「淡い霧」として美しく描くということは、そう誰にでもできることではない。
まず、そういった霧の存在に気づくことのできる鋭敏な感性。さらに、それを「ことば」として形にする凝縮力、そして、その一連の作業を厭わぬ粘着力…そういった稀有な資質が求められる。
しかし、彼女の本当の凄みは、「娘がおとなになって」以下の終結部。
ただ、感性が鋭いだけではないのだ。彼女の眼差しはむごいほど透き通って、物事のありのままの姿を捉えて離さない。
あの「淡い霧」は「ただの疲労であった」。
ただの純真な若さのなさしめる鋭敏さではたどり着けない洞察。娘の幻想がひっぺがされ、赤裸々な現実があらわになった瞬間。
にもかかわらず、この「ただの疲労」の美しさはどうだろう。
上っ面の「キレイ」が剥がれて滲み出たのは、日常の中で愛するということの重み。それは、報われない単純作業の繰り返しであるかもしれないし、感謝されることのない、それどころか頻繁に土足で踏みにじられる心遣いの積み重ねかもしれない。
極限まで切り詰められた簡潔さで茨木のり子は表現する。そんな愛のかたちがかもし出す「疲労」、その重苦しさ、そして、その美しさを。冒頭で述べた優しさのけぶる端麗さとは、彼女のこういった行間に語らせる技法の卓越に他ならない。
透き通った眼差しと優しさのけぶる端麗さ。
本当に類稀な美質を備えた方だったんだなぁと、いま彼女の遺された作品をめくりながらつくづく思う。
自分が茨木のり子という詩人に対して抱いている印象をひとことで表すと、こんな風に表現できる気がする。
家庭を持った女性特有の雰囲気を、よい香りのする「淡い霧」として美しく描くということは、そう誰にでもできることではない。
まず、そういった霧の存在に気づくことのできる鋭敏な感性。さらに、それを「ことば」として形にする凝縮力、そして、その一連の作業を厭わぬ粘着力…そういった稀有な資質が求められる。
しかし、彼女の本当の凄みは、「娘がおとなになって」以下の終結部。
ただ、感性が鋭いだけではないのだ。彼女の眼差しはむごいほど透き通って、物事のありのままの姿を捉えて離さない。
ひとの奥さんの肩にふりつもる
あのやさしいものは
日々
ひとを愛してゆくための
ただの疲労であったと
あの「淡い霧」は「ただの疲労であった」。
ただの純真な若さのなさしめる鋭敏さではたどり着けない洞察。娘の幻想がひっぺがされ、赤裸々な現実があらわになった瞬間。
にもかかわらず、この「ただの疲労」の美しさはどうだろう。
上っ面の「キレイ」が剥がれて滲み出たのは、日常の中で愛するということの重み。それは、報われない単純作業の繰り返しであるかもしれないし、感謝されることのない、それどころか頻繁に土足で踏みにじられる心遣いの積み重ねかもしれない。
極限まで切り詰められた簡潔さで茨木のり子は表現する。そんな愛のかたちがかもし出す「疲労」、その重苦しさ、そして、その美しさを。冒頭で述べた優しさのけぶる端麗さとは、彼女のこういった行間に語らせる技法の卓越に他ならない。
透き通った眼差しと優しさのけぶる端麗さ。
本当に類稀な美質を備えた方だったんだなぁと、いま彼女の遺された作品をめくりながらつくづく思う。
- [2006/02/26 11:43]
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コメント
そういえばこのあいだ・・・
先日深夜にラジオを聴いていると、爆笑問題が茨木のり子さんの『わたしが一番きれいだったとき』を紹介していました。誰にぶつけたらいいのか分からないくらいの当時の彼女の心境が窺えます。そしてそれをラジオで紹介するためにその詩を拾い上げた太田光の感受性にも感心します。
爆笑問題
>yusukeさん
へぇ、すごいなぁ。
実を言うと、僕、爆笑問題の二人大好きなんですよ。特に太田さんが。
彼は勉強しているなぁと折に触れて感じます。
「わたしが一番きれいだったとき」…いいですよね。
へぇ、すごいなぁ。
実を言うと、僕、爆笑問題の二人大好きなんですよ。特に太田さんが。
彼は勉強しているなぁと折に触れて感じます。
「わたしが一番きれいだったとき」…いいですよね。
疲労
人を愛してゆく、夫や子供を愛し、家庭を維持していくことには疲労が伴うんだろうな、とこれほどリアルに感じたことは無かった。結婚て桃源郷じゃないんだろうしね。人の心は移ろいやすいし、その上に打算や家族への愛着でかろうじて乗っかっている状態なんだろうと思う。
何のために神の前で永遠の愛を誓うのか、というのがだんだんわからなくなります。疲労の前に誓いはどれほどの効力があるのだろうか。
何のために神の前で永遠の愛を誓うのか、というのがだんだんわからなくなります。疲労の前に誓いはどれほどの効力があるのだろうか。
意味深…
>番長さん
わお、番長さん、意味深っすね。(笑)
でも、本当にそのとおりだと思いますね。
むしろ結婚してからが修羅場というか勝負というか…。
ある友人がウェディングベルのことを「ゴング」と形容していましたが、案外そいつはいいことを言っているのかもしれません。(笑)
わお、番長さん、意味深っすね。(笑)
でも、本当にそのとおりだと思いますね。
むしろ結婚してからが修羅場というか勝負というか…。
ある友人がウェディングベルのことを「ゴング」と形容していましたが、案外そいつはいいことを言っているのかもしれません。(笑)
淡い霧の秘密
ご無沙汰しています。(笑)
茨木のり子の詩‥ということで、
うちのへなちょこMACでは表示されない引用文を、慌ててソース表示させて(笑)読ませていただきました。
う〜ん‥‥しみじみと拝読。じわじわと涙。
寝太郎さんのような独身のお若い方が、主婦のお気持ちを詩により感受なさっていることに、なんだか救われる思いです。
淡い霧が肩にかかれば、それはひょっとしたら幸せな結婚なのかもしれない。
多くを望まず、深く悩まず、それでもいつのまにか身にまとっているもの。
それが淡い霧。
娘時代の若さとあの勢いに郷愁を覚えながらも(笑)、やはり戻りたいとは思わない何か。
知ってしまった何か。
そう、サンタさんの秘密を知った大人が、やがて自らサンタさんを受け入れるように‥。
発作的にメールまでしてしまいました。(^^;)
すいません。
ウェディング・ゴングか‥‥たはは‥
茨木のり子の詩‥ということで、
うちのへなちょこMACでは表示されない引用文を、慌ててソース表示させて(笑)読ませていただきました。
う〜ん‥‥しみじみと拝読。じわじわと涙。
寝太郎さんのような独身のお若い方が、主婦のお気持ちを詩により感受なさっていることに、なんだか救われる思いです。
淡い霧が肩にかかれば、それはひょっとしたら幸せな結婚なのかもしれない。
多くを望まず、深く悩まず、それでもいつのまにか身にまとっているもの。
それが淡い霧。
娘時代の若さとあの勢いに郷愁を覚えながらも(笑)、やはり戻りたいとは思わない何か。
知ってしまった何か。
そう、サンタさんの秘密を知った大人が、やがて自らサンタさんを受け入れるように‥。
発作的にメールまでしてしまいました。(^^;)
すいません。
ウェディング・ゴングか‥‥たはは‥
お久しぶりです!
>mi-keさん
う〜ん、やっぱり見えませんか。困ったな。
主婦の方の気持ちがわかるとは言えないんですよ。
ただ、この詩を読んで、母や祖母のことを連想したんですね。
それで、ただ、なんとなくそうなのかなぁと。(笑)
う〜ん、やっぱり見えませんか。困ったな。
主婦の方の気持ちがわかるとは言えないんですよ。
ただ、この詩を読んで、母や祖母のことを連想したんですね。
それで、ただ、なんとなくそうなのかなぁと。(笑)
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