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レビュー 映画 『タッチ・オブ・スパイス』 

B000AMYZIGタッチ・オブ・スパイス DTSスペシャル・エディション
ハピネット・ピクチャーズ 2005-09-16

by G-Tools


総評

 味、香り、少年時代…大好きなおじいちゃんと古都コンスタンティノープルへの郷愁。切なくも、なんだか暖かい気持ちになれる良作。


 ファネスはコンスタンティノープル(トルコ名イスタンブール)在住のギリシャ人。スパイス商を営む、お祖父ちゃんとは大の仲良し。スパイスがもうもうと煙る倉庫の中で、彼に料理や、怪しげな天文学―美食家(ガストロノモス)の中には天文学者(アストロノモス)がいる―を教わったり、幼馴染のトルコ人少女とままごとをしたり、幸せな少年時代をすごしていた。

 しかし、キプロス問題を契機に、ギリシャとトルコの関係は決定的に悪化し、ついには在トルコギリシャ人の強制送還が実施される。トルコ籍のおじいちゃんとファネスは離れ離れに。
オスマン・トルコ時代に達成された人種のるつぼは、ギリシャとトルコの間でゴタゴタが起きるたびに行われる民族浄化や双方の住民交換という形で破壊されていった。

 ちなみにこの住民交換の基準というのは噴飯物で、例えばカッパドキアのキリスト教徒などは信仰は違えど骨の髄まで伝統的なトルコ人であった。しかし、キリスト教徒だからという上っ面の理由でいっせいに追放される。その他、黒海南岸のギリシャ人たちも、独自の文化を発展させ、本土のギリシャ人とは言語がほとんど通じないまでになっていたが、これも追放の対象となる。もちろん、ギリシャ側も似たようなことを行う。

 東欧でいまなお頻繁に起こる民族浄化の一因は、こういった旧オスマン・トルコ帝国時代の他民族共存の形跡をナショナリズムの理念の下に排除しようという願望である。)

星を見て待て、同じ星を。

空には見える星もあれば、見えない星もある。

いつも見えないものを語れ、人は見えないものにこそ興味を持つ。

料理もだ、塩やコショウが見えないとまずいか?

違うだろ?

それでも決め手はは塩加減だ


 旅立ちのホームで、おじいちゃんはファネスを抱きしめ、こう伝える。「すぐそっちに行くから、一緒に住もう」という一言と共に。

 そして、ファネスは待ち続けた。「トルコにおいてはギリシャ人、ギリシャにおいてはトルコ人」として見られるという辛い境遇の中、大好きなおじいちゃんに教わった料理をつくり続けて。しかし、何度も来ると言っては、土壇場でおじいちゃんは来ない。

 そして三十数年が過ぎた。星を見て待ち続けたファネスは宇宙物理学の教授となった。再び、故郷の親族とともに祖父が来ると言う。ファネスは腕にヨリをかけた料理をこしらえて待つ。でも、やはり祖父は来なかった。

 待ち続けるファネス、コンスタンティノープルを離れられないおじいちゃん…二人が会えないのは、共にコンスタンティノープルという街へのあまりに深く、切ない愛情。

 二人の再会は果たされるのか?

追憶のコンスタンティノープル

 この「タッチ・オブ・スパイス」は、リピーターが続出し、ギリシャでは歴代興行収入二位のメガ・ヒット作品だったという。(ちなみに一位はタイタニック)その鍵は、「コンスタンティノープル」というキーワードにあるのではないかという気がする。

 そう、イスタンブールではなく、「コンスタンティノープル」。その陥落は1457年という遥か昔だが、依然、ギリシアの人びとにとっては特別な街なのだろう。 

 この映画の核にあるのは、みっつのコンスタンティノープルへの郷愁だと思う。ひとつは主人公ファネスの、そしてもうひとつは政治的理由から故郷を追われたトルコ系ギリシア人たちの、そして、最後にビザンツ帝国の末裔としてのギリシア人の。

あの人は来やしないさ。
あの街は美しすぎるんだ。


 ファネスの父はおじいちゃんが来ない理由をこう告げる。

 そして続くのが以下の血を吐くような告白。

 入国管理官から強制退去を命じられたとき、実は「イスラムに改宗したらあなたはここに残れる」と耳打ちされた。

 5秒悩んだ。

 地獄のような5秒だった。

 神よ、お許しください。(すごくうろ覚え)

 ギリシャ…想うだけならギリシャもいい

 しかし、想像の中でだ。


 折に触れ、こうした形で吐露される喪われた都、コンスタンティノープルへの郷愁がこの作品の中核にある。そして、ギリシャにおいてこれだけのヒットを飛ばした一因も、もしかしたらここらへんにあるのかもしれない。

味と香りが織り成す記憶

 このタッチ・オブ・スパイスという映画の見事さは、「味」と「香り」という、本来映像によっては表せない感覚を、表現の中核に据え、それに成功している点に挙げられる。

 実際、われわれの記憶においても、本来「味」と「香り」の果たす役割は非常に大きい。この映画は、ところどころでわれわれのそうした感覚をうまく刺激する描写でいっぱい。そもそも、映画の主要な場面のひとつであるスパイス庫からして、さまざまな想像を掻き立てるし、事あるごとに強調される「シナモンをつめた肉団子」などの料理に対する登場人物たちのこだわりは、まるで良質なグルメ番組を見ているようである。

 スパイスとはあまり縁がない日本人にもこれだけの印象を与えるのだから、おそらくギリシャの人びとにとってはシーンごとによだれがとまらない内容なのだろう。

 そう、ファネスのおじいちゃん、しいてはコンスタンティノープルへの郷愁は、ひとつには「香り」の郷愁なのである。

 大作とまではいかないが、ところどころ胸を打つ演出や、含蓄の深い台詞が多く、見入ってしまう。特に、ラスト・シーンは美しく、余韻にひたれること請け合い。


 「人生は料理と同じ。深みを出すのはひとつまみのスパイス」


 全編を通してセンスの良さを感じる。まったく、実にスパイスの効いた良作であり、ぜひとも一見をお勧めしたい。

 なお、レビューでは触れなかったが、後半、突如言語が英語になる。これも、理由をよく考えていくと、なかなか切ないのだが、言うとネタバレになるので自粛。

その他の映画レビューはこちら

天国の本屋~恋火
バティニョールおじさん
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コメント

コメント有難う御座いました

こういう、心に沁みる映画も良いものです。
私は、非常な作品が専門な者で…。

>hiropooさん

 やっぱり、こういう随所に職人的なこだわりをかんじさせる映画って素晴らしいです。そういう積み重ねが、感動を心に染みさせるのかもしれませんね。

はじめまして!
とても詳しく解説して下さっていて勉強になりました。
時代背景を詳しく知っていればもっともっと楽しめたはずなのにそれがちょっぴり残念だったのです。
TBさせて下さいね~m(__)m

>REXさん

 トラックバックどうもです。

 確かに少し予備知識がいる映画かもしれませんね。

 僕も後からいろいろ調べてみて
あぁ、なるほどなぁとおもったものです。

 でも、素晴らしい映画ですよね!

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タッチ・オブ・スパイス

2005年アカデミー外国映画賞ギリシャ代表、2005年テッサロニキ国際映画祭10部門受賞他数々受賞し、ギリシャでは興行成績史上第2位という大ヒット映画だそうです。少年と祖父の心温まる交流という事で『ニュー・シネマ・パラダイス』を越えた・・とも聞き、相当期待して観た.

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